元乃隅稲成神社

下関から長門に向かう国道191号線を長門市街地の少し手前で左折し、日本海に向かう細い道を進んで行くと、目の前の断崖絶壁に真っ赤な鳥居が並ぶ元乃隅(もとのすみ)稲成神社が見えてきます。海の「青」と鳥居の「赤」と木々の「緑」のバランスの取れたコントラストが実に見事で、インスタ映えするパワースポットです。図1

長門市観光コンベンション協会によれば、この神社は1955年に地域の網元であった岡村斉さんの枕元に白狐が現れ、「吾をこの地に鎮祭せよ」というお告げがあって建立されたとのことです。建立当初1基だった鳥居は、1987年から10年余りかけて寄付金や賽銭をもとに123基まで増設され、老朽化に伴う建て替えを経て、現在の形になりました。また、敷地内には約6mの高さの大鳥居があり(写真下左)、その中央上部に設置されている賽銭箱(写真下右)に賽銭を投げ入れることができると願い事が叶うと言われています。神社名を「稲荷」でなく「稲成」にしたのも「願い事が成るように」との意味が込められています。インスタ映えする外観、願い事が叶う日本一入れづらい賽銭箱など、若い女性客を呼び込むコンテンツが揃っています。図2

同神社は、近年外国人を含めた多くの観光客で賑わっています。2015年にCNNによって「日本の最も美しい場所31選」に選ばれたのを機に、新聞やテレビなど様々なメディアで取り上げられたことで注目され、また、2016年12月に長門市で日ロ首脳会談が開催された際に海外の記者が同神社を取材・情報発信したことも追い風となりました。2014年までは毎年3万人程度で推移していた同神社への観光客数ですが、メディアでの露出以降、2015年は約8万人、2016年は約53万人、2017年には約108万人と急激に増えました。
しかし、観光客の急増によって、48台分しかない駐車場待ちの車の渋滞や迷惑駐車、トイレ不足が問題となり、長門市が約1億4500万円をかけて、駐車場の拡張と地元の水産物やお菓子などを販売する施設を建設しました。筆者が訪ねた際は、駐車場も整備され、施設も建設された直後でしたが、駐車場料金と施設のお土産購入代以外に神社や地域にお金が落ちる仕組みが乏しく、今後の課題として取り組む必要性を感じました。
当初はストーリー的にも観光客数的にも地域資源といえるほどのものではなかったかもしれません。しかし、この神社に立つと、インスタ映えやパワースポットを予言するかのような景観や鳥居のつくり込み、そしてメディア効果は、偶然をも取り込んだしたたかな戦略であるように感じてしまいます。(Y)